『田中さんはラジオ体操をしない』『メタルヘッド』『スペイン一家監禁事件』

■新宿K's cinema 『田中さんはラジオ体操をしない』監督:マリー・ デロフスキー
編集による目新しさは特にないのだが、この田中さんというキャラクターが持つ明るさと、その田中さんに魅了される仲間たちが終止笑顔なのが、この映画の生命線。どんな状況下でもギターを片手に歌い続ける辛抱強さと、信念を感じることが出来る。逆に言えば映画は「信念」だとも言えると思った。

■事務所、編集。

シアターN渋谷『メタルヘッド』監督:スペンサー・サッサー
色々と感情移入出来る点が多々あった。母親の死により空虚感を共有している父と子供。それぞれが具体的に理由も分からないままスイング出来ないまま日々が過ぎている。ここの描写がとにかく秀逸だ。父親は気怠さと、のばしっぱなしの髭、子供はどこともなくフラフラと運転する自転車とうつむく表情と視線でそれを表現してしまう。そこに現れるジョセフ・ゴードン=レヴィット演じるヘッシャーという男の破天荒な行動によって次第に家族の様相が変わって行くのだが、この強引なまでの無理矢理感と異物としての存在であることをジョセフ・ゴードン=レヴィットは抜群のニュアンスで表現している。どこかしら憎めない何かと、歓迎するでもなく、断る事でもない何か、極めて日本人的なリアクションで返してしまいそうになる何かである。それが家族全員が同時に意思を持っていないことを現しているのだが。。。

この空気感というのは家族における妙な距離感そのもので、それが何となく映像に抜群の説得力を持っているのが「新しい」んだけど、どうしてそんな新しさを感じさせるのかは不明。たぶんキャスティングが皆今っぽくって自然なのかもしれない。ユーモアも抜群。「ちょっと待って」と言って普通にオナラをしたり、一体いつの時代のギャグなんだと思わせておきながら、しっかり複雑怪奇な映画のトーンに違和感なく入り込んでくるから、不思議。日本の映画は面白くすることをサボっておきながら、それを「オフビート」と言いきるいけすかない連中がいるけど、これは本当にエンターテイメントと映画に振り切った「オフビート」だと思う。

で、ラストは本当に号泣。

シアターN渋谷『スペイン一家監禁事件』監督:ミゲル・アンヘラ・ヴィヴァス
これも「今」の映画だった。長回し、手持ちカメラ、閉鎖された空間、などなどどの手法をとっても、低予算映画の名目となるものばかりだが、とりわけ重要なのは「ニック・オブ・タイム」を彷彿とさせる時間感覚のように思える。だからこそ事件の感覚を観客に突きつける本作は退屈でもあるけども、どこか野心的で挑戦的。犯人が全体的にアホだということを除けば、見応えのあるルックになっているとおもった。