クリエイティブ

クリエイティブって何だろう?

Twitterで久しぶりに佐藤可士和の名前を見た。どうやらウィダーinゼリーの新デザインをディレクションしたらしい。佐藤可士和多摩美を代表するアートディレクターであると同時に、自分が予備校時代に席巻していた一人でもあったような気がする。

何か久しぶりにその名前をググって色んなインタビューを読んだりしてみた。
http://tenshoku.nikkei.co.jp/r-agent/contents/insite/interview/201008.asp

このインタビューはこの人はかなり自分に自信があるんだろうなっていう内容だったけど、言ってることは確かにそうかもしれないと思えることは多々あった。ここにあるイメージ力という部分を彼はもう既に予備校時代から確立し、美大の課題の頃から優れた作品を作り続けていたことが分かる。

イメージ力かあ。

俺はそういうのがつくづくなかったなあと思う。完成形も見えずに、自分がどうなりたいかもブレブレだった。だからやっぱりゴミのような作品をいっぱい作ったし、無駄な時間を沢山過ごしたのかもしれない。たった一つの成功作、卒業制作はイメージがしやすかった。だってミッキー・ロークの『レスラー』を作りたかったんだから。俺はダーレン・アロノフスキーになりたかったんだと今になって思う。そういうモデルが頭の中にあった俺はブレがなかった。

でもまたブレた。モデルも分からず、技術もなかった俺はまたゴミを沢山作った。やっぱりそこには明らかにイメージが欠如していた。

けど、最近何か変わった。ちょっとイメージ出来るようになっている。なりたい自分が想像出来て、作りたい作品のイメージが少しずつだが見えるようになってきた。きっとこれは高木さんのおかげだ。

高木さんはDVDの表紙でも何でもイメージを伝えてくれる。凄く分かりやすい形で、イメージが既にそこにある。俺はそれを具現化しようと何とか頑張ろうとする。そうすると、こうゆうことだったのかというのが分かるようになってくる。次第に俺の意見も採用されてくる。ここで活かされるのが、大学時代にアホほど沢山見た映画の蓄積だ。映像を志したいのに、何もなかった俺は映画を見まくった。映画を見る事は苦にはならなかった。デザインの勉強を志しても、好きな作家を見出せなかったけど、映像はちょっと違ったんだ。その蓄積から、映画の引用などのイメージが想起出来る。


学生の頃のスターは坂井さんや松江さんだった。自分にも出来るかもしれないというインディペンデントな表現でブレずにカルチャースターになっていった二人が格好良かった。憧れた。


高木さんは、DDTに入る際に俺にこう言った。「マッスル坂井のようなサブカル系のスターになれる可能性がある」と。

でもDDTに入ってそう感じられることは一切なかった。ひたすら矢継ぎ早に頼まれるAD業務。誰かのための下準備に翻弄された。
もう自分自身のイメージなんて持つ事が出来なくなっていた。

でも何か最近は違う。毎日ジムにも通って、腕が太くなっている。俺はやっぱり、プロレスも映像も武器にしたい。もし出来る事なら書く仕事だってやってみたい。
俺は俺自身が得意かもしれない、向いているかもしれないということに制限をしたくないんだ。やっぱりそう思った。俺は俺の自由を手にしたいんだとやっぱり思っている。

俺が働いているところは、新宿の狭い雑居ビルの2階だ。こうして、いつも一人で残って制作をしている。博報堂でも電通でもテレビ局でもCM制作会社でもない。名もなきただのプロレス団体の映像班だ。会社としての格は遥かに落ちる。

でも一言だけ言える。俺が今取り組んでいる作業や、プロジェクトは紛れもなく「クリエイティブ」だ。

俺はプロレスに関わる事がクリエイティブだと信じたかった。音楽が好きで美大に入る連中が沢山いるように俺はプロレスが好きで美大に入った。
プロレスはクリエイティブなんだ。興行を開催するということはクリエイティブなことなんだということを俺は身を以て知った。そして俺自身がレスラーになることで、ダイレクトにそのエネルギーを感じられるようになった。役割分担なんてないに等しい。俺は興行に関する事について何でもやってきた。


可士和のこのインタビューを見ると、ようやく俺はイメージ力を持ちはじめた。
イメージを持てば、カラダが変わった。でももっとだ。もっと強い輪郭のイメージを持てるに違いない。

これから作る番組も、PVも俺がもっと自信をもってイメージを持つ事で、それは可士和の言っていることに近づけるんじゃないかと思っている。

やっぱり坂井さんになりたいと思っている。坂井さんは格好良かった。憧れだった。そんな坂井さんがいた会社でこうやって坂井さんがしてきたであろう深夜作業をしている。坂井さんが月一で応援に東京に来てくれている。プロレスや映像や他のジャンルを跨いでいく人間になりたい。プロレス界がどうとかじゃなくて、俺がそうなりたかったんだってようやく気付いた。

俺はこれから自分が着たいと思う服を着る。俺が作りたいと思うディレクションに近づける。俺がカッコいいと思うフォントを使う。俺がなりたいと思う人間の体型になる。俺がしたいと思う生活に近づける。つまるところなりたい自分が見つかりかけている。ちゃんとクリエイターとして見られたい。徹底して厳しくありたい。そう思い再び作業に戻ろうと思う。