新宿ピカデリーリンカーン弁護士』監督:ブラッド・ファーマン
面白かった。よくある法廷ものとか、推理ものでありながら、ちょっと工夫が届いた撮影方法や、一度見たら忘れられないキャラクター造形などもあって、小気味良い作品になっていたように思える。さらに言うと善悪の領域を行ったり来たりする主人公の弁護士は、その狭間で巻き起こることに揺れ動きながらも、無実であった男を牢に入れてしまった思いへの罪悪感に対して強い嫌悪を抱き、次第に揺らがない正義の心を持つようになっていく様も良かった。タイトルにある通り高級車リンカーン・コンチネンタルを乗り回す主人公のお洒落なOPクレジットから主人公のイメージが確立される。

技術的なことを言うと、微妙にカメラの揺れを活かすことで、かなり「今っぽさ」は増して見えた。もちろんそれだけではないし、その演出がその場面に適しているかどうかは疑問な箇所はあったけど、今の演出だった。カットで割らずに高速のバンで法廷の空間とバトルを描写しているのも流石だ。

物語もしっかり見ていれば分からない事が無い程度の、しっかり分かりやすい話にまとまっていたと思う。というより語り口が上手いからここまで整理出来たと言っていいだろう。余計な描写をすることなく、法廷が裁判が翌朝まで延びれば、すぐにその地点の描写になる。

あと仲間の使い方が上手い。主人公が窮地に立ちながらも、ある一つのことについてはエキスパートな仲間がいることで、そのピンチから逃れて行く。(突っ込みどころではあるが、超人的な能力というよりは信頼出来る仲間というグルーヴ感があるので良いかも)

新宿バルト9苦役列車』監督:山下敦弘
山下監督のシンプルな演出が妙にハマっていて、とても好感がもてる作品でした。これまでのオフビートさとは別の次元で、むしろしっかりとフィックスで撮られた映像が実に効果的に現れていたように感じる。原作を読んでいたので、原作特有の私小説としてのねちこっさ、文体は確かに失われていたのかもしれないが、この脚色でまず正解だったように思える。

全体が浪花節のこれぞ、日本の底辺!という画面がひしひしと伝わってくる。何だかんだでここは日本なのだから、日本語と日本の風景で何を切り取るか、表現していくかという使命。

風俗描写も含めて日本の文化、風景だからこその切なさと、人間のだらしなさと、愛おしさ。人生の摩訶不思議。過剰な描写を控えて、役者の演技とフィルムの質感を信じたからこそ、ラストの落とし穴が強烈に笑えたのだと思う。日本映画は新しい演出をしていないように思えるけど、こういうケースが正解の場合もある。作品によって適切な演出を選ぶことは大事だと思った。

さらに言えばマキタスポーツの存在感が圧倒的だ。歌が上手いおじさん。しかしそれを披露するのは仕事の時間が終了した「カラオケ」でしかない。おそらく何らかの形でその才能は生かされたはずなのに、それを活かす時代精神と、生き方を続けていた結果、そんな形で収まってしまった芸が、3年後居酒屋で見たテレビでオーディション番組に映る彼の姿。ただ主人公が居酒屋でテレビを見ているワンカットだけで、人生の悲哀がグッとやってくる。そこでチャンネルを変えようとするガラの悪い男と乱闘になったりする演出もgoodだ。

のぞき部屋で追加料金を払ってフェラチオをしようとした女はかつての自分の女だった。そしてその今彼に殴られるが、そんな今彼と何故か分かり合い、動物ごっこをしだして笑いをとる。こういう場に出てれば、そんな摩訶不思議な出来事がやっぱり起こりはずだし、そんなことで現実は一杯だと共感出来た。

激しいカメラワークもなければ、大きい規模でもないこの映画は私小説の私的体験をベースを原作としているだけあってオフビート作品特有の非現実感がさほどないように思えた。しっかり足を据えた主人公たちと身の丈に合った演出以上に日本の原風景は強烈な要素なのだと思った。

■ビアガーデンプロレスに出場することになった。この2年悲しみをぶつけよう。けど、自分なりの興行論もぶつけよう、ストレス解消になれれば良い。入場のイメージを決めた。踊り狂いたい。キャバレー芸術。