新宿ピカデリー『恋と愛の計り方』監督:マッシー・ダジェディン
デジタル上映かと思っていたが、フィルム上映だった。結婚して数年の夫婦が互いにスレ違い、隙を見せてしまう瞬間を交互にとても上手い構成で見せていく。互いに伴侶以外に気を揉んでしまった人が現れ、そしてそこで何かが起ころうとしているとき、その時に見えない伴侶の存在は想像出来るのか、それとも嘘を付こうとしてしまうのか。夫婦の信頼、そしてそれが崩れていく様を描こうとしている。倦怠している瞬間にこそ、他の浮気への気持ちの作用が働くのが常だが、ひたすらこの映画はそのせめぎ合いで揺れる4名の男女に限定して演出をしているので、非常に見やすい構造となっている。視点がその一点に注がれているため、どういう選択をとってしまうのか、どういう気持ちの揺れ動きがあるのか、そんな些細な感情の機微を捉える事に成功している。ある一瞬の心情変化を狙うためにそれに相応しいキャストと手堅い演出、そしてそれを支えるロケーションが美しい。大人なら誰でもが経験しそうなその体験を映画ならではのモンタージュによって紡ぎだすその確かな手腕とシンプルな演出に酔いしれる。

ある一瞬の感情の機微だけで90分の高い満足度の映画を作れるのだなと思うと、映画監督とは些細な感情や感想を無視してはいけないのだと改めて思った。

それにしてももっさんに似ていた俳優の甘いマスクのこと。そういうキャストがいるだけで映画を牽引する理由になり得る事がしっかりと分かりました。