『アニマル・キングダム』

映画秘宝のベスト10、トホホベスト3を見て思ったのは人によって評価軸なんて異なるもんだということだ。人にとってその時見たものがベストになることもあれば、それがベストにならないこともある。結局そういうことだ。これだけ癖のある映画雑誌において表明することもそうだが、好み一辺倒の中で真実を見いだす事も、そしてそこから作家性も浮き立つ事も事実なのだろう。

人の作品に対して上から目線での攻撃性に辟易する部分もあるけども、同時にやっぱり作った人が一番偉いという箇所が見え隠れするのもこの企画ならではだろう。その中で確実に嬉しいのは一位が『ピラニア3D』ということ。おっぱい、エログロ、スプラッターと興行性の強さが引き立つこのジャンルが「1番という価値」が重要だ。

新宿武蔵野館アニマル・キングダム』監督:ヴィッド・ミショッド
メタルヘッド」の脚本家、デヴィッド・ミショッドの長編初監督作。素晴らしい。メタルヘッドもそうだったが、映画としての極に触れながら、些細な人間感情を映画的としか良いようがない画面で体験として伝えてきた。本作はひたすら観客にトラウマを喚起させるレヴェルのいや〜な描写がたっぷり。

個人的なことを言えば、これは僕の名古屋時代の映画だと思った。まさにアニマル・キングダムと呼ばれる部署に配属され、その連中によって翻弄されていく。やがて巻き込まれていく事件の中で警察(人事部)との狭間に立ちながら、常に緊張感ギリギリの心理状況に追い込まれていく。あれは僕そのものだった。だから見ていて辛くなる。

とにかく家族全体が包むモンスター一家としての空気感が凄まじい。こんな家族に生まれたら嫌だなというか、もうその運命から避けられない悲しさを背負わなくてはいけない何かを感じてしまう。静かな立ち上がりから見せていく各々の狂気。教養とはかけ離れた家族のルールは社会から見れば間違いなく牢屋に入れておかなくてはいけないレベルの「悪」なのだが、それでもその家族は社会の枠組みの中で生活をしている。しかし、本来外部であった主人公が母の死をキッカケにその家族に入った瞬間から一変してしまう。その家族のルールに従おうとしたとき、そのルールが社会に対して見せてしまったルール違反から一気にどん底への階段を突き進んでしまう。さらにたちが悪いのは、ここに存在するビッグママだ。ビッグママはそこにいる家族たちを息子同然に愛しており、鉄の結束を見せつける。ある意味ではこれが「おばさん」の驚異的な強さなのだと思った。「おばさん」特有の可愛い息子への無償の愛は、時として狂気のレールに踏み込んでいるケースが日常的に多々あるような気がしてしまう。そんなゴージャスな気質のおばさんが、統率していた家族はたかだか事件一つでは揺るがない。しかしそれでも、社会は罪を罰しようとする。警察はその匂いを嗅ぎ付け、彼らを追い始める。彼らには家族のルールでしか適応出来ないために、社会で立ち回る脳を持ち合わせてはいない。

私が感情移入すべきは、まさにこのモンスター家族の見えないヒエラルキーなのだ。社会にはこのような形成を成した集団が会社や家族にあるのだという事実。ひたすら僕にはこの家族がかつて所属していた部署にしか見えなかった。あの逃げることさえままらない、だがどうする事も出来ない「悪循環」

最後に主人公は「居場所は見つかったのか?」と聞かれ再び家族の元に現れる。だが、彼の選択は銃を持ちおとしまえを付ける事だった。さて私はどうケリをつけるだろうかと考えてしまった。

郷に入れば郷に従えではないが、その郷そのものが社会から逸脱しているケースなどいくらでもある。しかし「アニマル・キングダム」が各所にそれでも点在しているからこそ「事件」は起こる。それはどんな集落にも存在し、またどの時代にも「怪物」「猛獣」を生み出すケースがあるのだということを。

■DVD『倫敦から来た男』監督タル・ベーラ、アニエス・フラニツキ
退屈だ。実に退屈なのだが、その滑らかなカメラワークに身を寄せたくなるのだろう(これがたぶん劇場だったら大丈夫かもしれないが)が、これは明らかに現代のスピードでは耐えられない。映画の宣伝文句もやはりその監督の巨匠っぷりをアピールするに留まる内容。これらの作品を見れば、如何に自分が現代の映像手法に囚われているか、逃れられないか分かる。だがしかし、それでもそれを更新したものを作らねばならないというのは何と大変なことであろう。

モノクロの華麗さ。これはありだ。気がつけば『π』『フォロウイング』もモノクロ。次作はモノクロで勝負。僕の場合は卒業制作でやはり編集で物語を作っていたのだという事を改めて痛感した。これは脚本がスカスカの作品や、それらをアート的なアプローチで逃れることで成立する作品群を見ると改めて分かる。結局のところ言えるのは、私はどこかで観客に媚びることをしなければ作品は作れないという事だ。観客を意識した作品制作をしばらくは続けなくては行けない。このようなアート的な突きつけを出来るほどのに、まだ賢くも地位もないのだから。

まずは各監督のデビュー作を徹底研究するのも良いな。まだそういう部分で素人童貞みたいなもんですから