『ヒミズ』

■DVD『BU・SU』監督:市川準
CMの作り手である市川さんの作品。心のブスを直すという目的のもとに90年代のCMのような瑞々しさの映像がひたすら羨ましくかつ、映像的豊かさと、時代を映し出していたような思いに駆られる。言葉数が単純に少ないのも興味深い。

■食事。

新宿バルト9ヒミズ』監督:園子温
原作はまだ読んでいないのだが、日本映画の新たな主軸になるであろう大傑作だと感じた。園さんはデビュー当初から一貫してポエジーな表現を好んできた。初期作の若さ溢れるテイストにも似た圧倒的なド青春映画でありながら、そのテンションは極めて「詩」の部分による引用ものでグイグイ行っている。それは圧倒的なボリュームとテンション、さらに技術的な点においても近作で結晶しているように思えた。手持ちカメラによる不安定な画角や画面構成よりも、ひたすら高いテンションとテンポを引き立たせる役者陣が初めて結実したかのようだ。そういう意味では実に演劇的な要素に傾いているが、その後の編集や音編集によるデジタルによる軽快かつ巧みな要素も相まって園作品はゼロ年代末に結実したのだ。僕はそう思う。これまでの8mm作品などで行われていた実に荒々しい作品群、実験的な方法は今日のデジタルでの映画製作と、園組と呼ばれる役者陣の完成により量産体勢に入ったと言って良いと思われる。

それが監督自ら熱望していた漫画を大胆に改編しながら、園ワールドの作品に仕上げてきた。圧倒的な主演二人の若さと園さんの演出に負けない存在感、特に染谷さんの狂気を感じさせる目つきが凄まじい。顔に絵の具をぬったくり、包丁を持って街に出る。まるで気狂いピエロのようなルックで。それは映画の古典的記憶を刺激させる。つまりこれも映画の根源的な魅力、琴線に触れさせる一つの要因なのではないか。

こちらに何かしなくてはというエネルギーをひたすら与え続けるこの映画の正体は何なのか。希望を見せる「スミダ、頑張れ!」という河原での疾走は8mm少年だった園さんそのもののようだった。そしてそれがこんな現代にも多くの人の心に残ることの意味ではないか。映画はその時代を映し続けし、映画監督とはそのような改編を覚悟して行う者のことだろう。

追記:ヒミズに関しては否定している方の意見も多く、その意見も至極真っ当な意見に思えた。この作品が賛否両論であることは間違いなく、震災の扱いや、原作ファンからの疑問も含めての課題は残るだろうが、この作品は小さな作り手や、ミニマムな世界で闘っている自分には手法やテンションも含めて背中を後押しされたのだった。