トッド・フィリップス最高

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■DVD『ロード・トリップ』監督:トッド・フィリップス
ハングオーバーの監督であるトッド・フィリップスを研究しようということでまずは割と初期作の本作を見る。これがまあ素晴らしい出来でビックリする。浮気の証拠となってしまうビデオを間違えて遠距離恋愛中の恋人に送ってしまうのだが、それが到着するまでに何とかしてビデオを回収しようというドタバタロードムービー型のコメディ。まず感心するのが、トッド・フィリップスはコメディにおけるフォーマットをいくつか自身の中で形成しているということ。言ってしまえば使い回しなのだが、これが彼を作家論の域にまで到達していることを意味している。後の『デューデート』とともほぼ構造は一緒であるし、未見だが『GGアリン』から始まるドキュメンタリー型のジャンルも原案に関わっているであろう『ボラッド』に引き継がれている。近作『ハングオーバー』も続編の2とほぼ変わらないスタイルをとっていることからも分かる。そんな初期作の『ロード・トリップ』に既にトッド・フィリップスのお株とも言えるおバカだけど周到に練った脚本の中で笑わせていくというスタイルは完全に確立されている。

トッド・フィリップスは世の中で「健全」と考えられている一般的な考え方に、圧倒的な非常識でもってそれを笑ってしまうことだ。幼なじみの恋愛が当たり前のように進学するにつれて他の男子に気がいってしまう状況など、そんな一般的な健全な恋愛など、ちょっとした性欲や人間の本能の前には無力であるということをまざまざと示してしまう。そんな中で、けど健全でありたいと思う心と、クレイジーにならざる終えない自分との葛藤の中でおバカに魅せる笑いを作り上げている。

本作のベーシックなテンプレートはおそらく『スタンドバイミー』に通ずるスタイルだ。起こった旅を回想するというスタイルも含めて旅をする人間たちも非常にベーシックな分かりやすさでバランスが整っているが、そんなバランスに対して現実的にありそうな狂った状況を提示してくる。学生同士が好きな女の子を競りで買う方法で一夜を共に出来るという遊び、嫌いな男に落札されそうだから、「あんた私を買って」なんて言葉が出てくる。学生の中で起こるコンプライアンス破壊や「あまりに正直な性衝動」をとにかく最大の力に値するヒエラルキーとしてトッド・フィリップス自身が判定しているところにあるだろう。事実、監督自身が登場し女性の足を舐めるシーンのみに出演している。単体で笑わせるシーンとしては金がなくなり、精子提供で金を得ようとした際にオカズとなるエロ本でアジア・フェチだからアジア人のものを用意してくれと看護婦に懇願するシーン。「ここは風俗店じゃないのよ」と断りながらも、「もしかしたら俺を手伝いたいんじゃないか?」と逆質問し、ヌいてもらう。とにかくトッド・フィリップス作品は「目先のエロこそ正義」という快楽主義や刹那的な動機がハッキリしている。どんな登場人物もどこかしらフェティシズムな連中ばかり。仲間で一番痩せっぽちの男が童貞を喪失するシーンは非常に放漫な黒人女性だし、何かしら暇を持て余している登場人物は必ずと言っていいほどにテレビでエロチャンネルを見ている。おじいちゃんがエロチャンネルを見ているともの凄い角度で勃起している。そんな情景こそがトッド・フィリップスの正義なのだ。

何故ここまでトッド・フィリップスに自分がここまでトッド・フィリップスに惹かれるのか。それはもちろん自分の卒業制作『ガクセイプロレスラー』に通底する部分があまりに多いからである。刹那的であり、非常にフェチ的であり、マニアックである。だからこそ常人とは違うコンテンツを提供し、また常人に対する批評的な笑いも出来る。トッド・フィリップス作品を見ていると「ノーマル」に生きることなんてつまらないぜと言われているような気分になる。

■DVD『バッド・ルーテナント』監督:ヴェルナー・ヘルツォーク
何か久しぶりに見直した。ニコケイのラリっている演技が最高。やり過ぎと思われる高笑いなのだが、本当に「こいつラリってやがる」という台詞に説得力が持つ。この作品も狂っていることが「正義」になってしまったというとんでもないお話だが、「映画」ってそうじゃなきゃなって姿勢を正される。

■BD『クロッシング』監督:アントワン・フークア
やっぱイーサン・ホークがカッコいい。理由は不明だった