『男たちの挽歌』

テアトル新宿冷たい熱帯魚』監督:園子温
新宿に寄り、まっすぐに事務所へ向かおうかと思うものも、やっぱ映画一本くらいは見ておきたいなとなり、向かった先はテアトル新宿。夜の回がなくなり、平日で2回しか上映出来ない状態。ならば少しでも映画館にお金を落としておきたいと思うのが自分の出来る事の一つだろうか。映画は噂を一通り通り越した状態で見たわけだが、噂以上の傑作。感心したのは俳優の演技以上に園監督のこれまでの実験映画的手法が完全に身を結んでいる点に他ならない。今、振り返るとデビュー作である『俺は園子温だ!』に始まる完全なる個人映画、8ミリ映画は若かりし気頃特有の自意識の発露であり、その破天荒さにはただ驚かされるばかりなのだが、ところがそれから20年以上の月日が経てば作家とはこうも、その若い頃の片鱗を一本のエンタテイメントとして昇華することが出来るのだなと感心してしまうのであった。ジャパニーズジョーカーとしてその存在を示した"村田"ことでんでんの怪演はコメディアン独特の言い回しに「悪役」という要素を際だたせた日本映画史に残る怪物を誕生させたような気さえする。黒沢あすかのエロさが随所に際だっている。出演している女優はお世辞にも「美人」と形容するには難しい「純・日本人顔」なのだけども、そのどれもが日本映画でしか見る事の出来ない妖艶さをまといはじめている。

■事務所で編集作業開始。節電モードで寒さに凍えながら。古武さんと映画談義で盛り上がる。古武さんにマンツーマンで教わったり、会話をすることは何だか多摩美グラフィックデザイン学科の広告映像ゼミを彷彿とさせる(受講したことはないが、学内では憧れの人気授業)。日常が大学の授業のような「教え」を内在させるとこれまた独特の充実度で満たされるわけだ。


■新宿バルト9『男たちの挽歌 A BETTER TOMORROW』
被災の影響は各映画館にも影響を及ぼしているよう。新宿バルト9も深夜上映を自粛した。こんな状況下だからこそ、また映画を見たくなる部分もあるわけで。新宿バルト9で『男たちの挽歌』を見てきた。リメイク作品で、自分はオリジナル作品を大学の先生にビデオを借りて見たわけだが、相当な衝撃を目にして迎えた気がする。何しろ映像論の授業ではバイオレンス映画のエポックメイキングとして、レジュメにも何かと記載されていたから。だから形式的な2丁拳銃も、ド派手な爆発シーンも過剰なまでに映画史という括りで見るキッカケを与えた作品だけども、個人的にはやはり女優らしい女優がほとんど出演しないという、ボーイズラブな世界観やホモソーシャル感という作品の根底にある魂を嗅ぎ取ったつもり。それは卒業制作『ガクセイプロレスラー』にも多分に影響しているであろう世界観。リメイクはやっぱりあのテーマ曲の不在を感じてしまった。やっぱりあのテーマ曲があるととにかくノれる。というか名作にはテーマ曲ありきということを、このリメイクは同時に物語っているわけだけども。しかし韓国俳優陣は全員が魅せてくれた。もはや死語になりつつある「イケメン」という要素だけではない愛嬌がそれぞれに備わっているからくどくない。これはもう日本の若手イケメン俳優との決定的な違いでなかろうか。