『ワイルド・ビル』

『ワイルド・ビル』という映画を観た。シネマカリテで未公開作品を上映する企画の一つだったんだけど、これが人生ベスト級の映画だったもんで、ネタバレを含みながらも何で感動したのかを紐解いて行きたいと思う。



以下ネタバレあり。


主人公はかつて「ワイルド・ビル」と呼ばれた悪い男。8年の刑務所生活を終えてシャバに戻って来た。仲間連中はビルが戻って来た事を歓迎するが、ビルは堅気に生きていかねばとも思っているわけです。そこで息子達と会う。息子たちは長男が自立して生きることで何とか家族関係を成立させていたんだけど、父が帰って来ることが受け入れられないーというのが大本のあらすじで、これ自体はよくある話の一つなんだけど、細かい人物描写やディティール、そして演出がまあ感情移入できるのです。

■息子の誕生日に売春婦をプレゼントする。
オヤジは息子の誕生日プレゼントを忘れていたことに気付き、ケーキを作ろうと買い物に出掛ける。そこで出くわしたのは酔っぱらっている時にセックスをした売春婦だった。こんなギャグがクスっとさせてくるんですよ。この売春婦役が後にベビーターンする瞬間は震えましたね。この人は薬の売買でヤクをやっているわけですが、子供を運び屋として使う仲間達に反旗を翻して、子供たちの面倒を見ようとする男気溢れる女性でした。この人が母親変わりのように家族に受け入れられていく感じも、美しい美貌と茶目っ気で何だか許せてしまうバランスが秀逸でした。

■子供の視線
自分が好きな映画には子役の男の子が交わす視線の交錯があります。「刑事ジョン・ブック」などがそうでしたが、今作でも二人の子役に加えて、悪ガキが非常に重要なアクセントを果たしています。この映画に「可愛げ」を与える重要な要素の一つでしょう。とにかく微笑ましい気持ちになり、そして作中での成長及び感情の機微が豊かです。

■カタを付けに行く。決闘場所は酒場であり、素手で闘う。
これもグッと来ました。ヤクに関するストーリーで主人公はどんどんモメていきます。子供に悟られないようカタを付けに行きますが、それが古びた酒場で、しかも素手によるストリートファイトで多勢に無勢に闘うシーンがありました。カット割も非常に自然な形で行われており、グッと来るシーンになっていました。こういうツボの抑え方が秀逸であり、カタを付けにいくシーンは男の顔が正面に映るショットがあるというお決まりにもしっかり応えていました。

■ラストシーンのジャンプカット
ラストシーンに台詞はありません。主人公はパトカーに乗せられていきます。また事件に巻き込まれてしまって捕まってしまうのです。でも子供たちにはメッセージは伝えました。子供たちも「待ってる」という覚悟でそれを見送ります。するとカメラは後部座席にいるビルの顔のアップショット。ビルは泣いています。しかし段々とジャンプカットで表情の機微が出て来ました。すると最後は笑っているのです。それは息子たちにメッセージを伝えられたからでしょうか。それとも自分の人生に笑うしかないのでしょうか。しかし含蓄のある笑いはビルがこの映画で果たした成長と、観客に感じさせたカタルシスに他なりません。最後この笑顔のショットで終わらす。この行間のある感じと、ながまわしではなく、ジャンプカットで魅せるテンポの良さに関心しました。

■長男の恋。
長男は恋をしています。その相手の不確かさと、若く刹那的な感じがブリタニー・マーフィーを想起させました。

■親子間にあるサムシング
親子間には段々と信頼や目線のやり取りで心の変化を読み取らせるシーンが多々ありますが、次男に屋上で説教をするシーンは秀逸でした。[
20年前の俺ならここに逃げていた」とかつての自分を息子に重ねつつ、刑務所はマズいメシを喰わされ、ゲイに寄られて最低の場所だと語るシーンです。でも次男はしっかりその説教を受けとめるんですよ。その語りが実に説得力があるからです。素晴らしい。

他にも追記を書いて行ければ書いて行くけど、とにかく最高だった。たぶんこの映画が僕の基準になることは間違いないと思います