『第7鉱区』

新宿バルト9『第7鉱区』監督:キム・ジフン
高い消化不良感を残して劇場を後にした。悪くないはずなのに、何かが上手くかみ合っていなかった。そんな印象を紐解いてみたい。

前半部で説明される隊員たちの姿。親指を突き立てる主人公はハ・ジウォンの姿はその明るさと、ルックスで何かを期待させる煽りを見せる。その他の隊員たちと傷を見せ合いっこしたり、それぞれのキャラがたっていて、期待値が上がる。良い意味でのウルトラシリーズ感がこの隊員たちにはあり、その集団によるグルーヴ感がとても心地よかった。ちょっとした恋愛劇もほのめかせ、モテなそうな隊員が押し付けがましくプレゼントをしようとしたり、それをもらうのをためらいつつプレゼントの中身が気になる女性隊員の姿など、その様子はエヴァンゲリオンのシンジ、アスカ、レイの三者三様の関係をじらしながらも暖かく見守るような感じにも似ている。そんなgoodなシーケンスだった。しかしそれらの伏線が後半部に全く活かされない。

良い表情をし茶目っ気たっぷりに「味」のある隊員がたいした闘いもせずにバタバタと死んでいく。何かを誰かに託すでもなく、大義を成し遂げる事なく、登場人物のほとんどが「隊員A」「隊員B」といった記号で死んでいく。あれだけ前半部で説明した描写がこうもあっさりと死に、誰もその死をしっかりと受け止める描写がないのはいかがなものだろうか。

トゥーマッチな演技がなお悪ふざけに見えてしまう。ほぼ石油開発区域一つに限定された空間はある意味で演劇的だ。非常に悪い演劇を見ているような気分にさせられるのは、そこですべき演技と、そこですべき感情がどの場面でもチグハグなまま物語が進行してしまうことにある。

またモンスターの造形もよくない。僕自身も「グエルム」を評価していない一つの点は怪獣に愛嬌や記憶に残るような姿形が見受けられなく、ただその映画をかき回す「異物」でしかいないこと。合成丸出しのルックは本来ならば味や愛おしさに還元出来る要素にもなりうるが、ひたすらこの怪獣が浮き足たった状態で存在しているため許せるものではなくなってしまう。

バラバラの記号がバラバラの構成でバラバラの感情が収束せずに終わる。映画の怖いことは断片が断片のままでは観客に違和感を残したままひたすら時間が進行することだ。この映画はテレビシリーズにすべきだったかもしれない。各キャラクターに見せ場を持たせ2時間のカタルシスを与えるのは不可能だったのか、ならばもっと焦点をしぼれなかったのか。ひたすらその惜しい感情が心に残る。

そしてラストのシーンもよくない。たった一人残された女が語るには、あまりに画が付いていっていない。もしやるのならばそこで背負うものをナレーションベースでも使って浪花節に演出すべきだった。

上手くいくべきことが上手くいかない。それは構成、編集をつめれば解決すべきこともある。本作はそれを防ぐことが出来なかった典型例の一つになるでしょう