イメージフォーラム『ラブ・ストリームス』監督:ジョン・カサヴェテス
超満員のイメージフォーラム、カサヴェテス最後の作品は愛について不器用な人たちによる物語。2時間超のたっぷりとした尺を使用しながら、カサヴェテスは人間のどうしようもない「愛」についての話を最後に作ったのでしょうか。何かがフックになっているとか、脚本上何かが優れているとか、そんなことを語るのが野暮にさえ感じられる。そういうものとは全く別に映画的としか言いようがない感動に終止満ちているからだ。カサヴェテスが探求していたことが愛であるならば、その愛が成就することを描いたラブ・ストーリーではない。むしろ愛によって関係がこじれ、そして狂気に迫っていく瞬間を捉えようとさえしているようだ。何故愛に迫れば迫るほど、人格が破綻しかけるのか、何故愛が深まるほどに破滅の匂いが漂うのだろうか、一元的な解釈が出来ない。しかしながら、その画面に釘付けになり、そしてその登場人物たちが「自身のなさ」を嘆きながらも、やはり人を愛せずにはいられないその姿に心を震わさざる終えない。何故「愛」を描きたくなるのか、何故にここまで愛について探求せずにはいられないのか。生々しいその人物たちの動きを捉えながら、終盤に幻想的なシーンへと切り替わり歌を歌いだす。愛は流れ続けるものなのか、そんな問いが生涯ベストを掲げる人さえ出ることを示しているのか。

■HUMAXシネマ渋谷『バッドティーチャー』監督;ジェイク・カスダン
キャメロンディアスのはっちゃけっぷりがその身体性と、独特の顔立ちと共に非常にバランス良く発揮出来ている印象だ。やや突っ込みどころのある構成、編集ではあるもののキャメロン・ディアスのどちらかと言えば「悪い」行動を「どこか憎めない愛すべきキャラ」のラインに成立させているバランスがあまりに見事だ。我欲のためにありとあらゆる手段を使う。けどそんなことのために本気になることも人生で大事なことの一つかもと思える牽引力がある。この映画は文字通り「バッド」な教師が我欲のために次第に教師として妥協を見せない教師と変貌していく様が描かれている。やる気のない教師が、突然目標を見つけこれでもかと徹底して仕事に打ち込み、共通テストの解答を峰不二子ばりの色仕掛けで奪う。そこに生じるサスペンスと、そこまでやるかという行き過ぎたギャグが逆説的に問題提議をさせている。つまり勉強とは何なのか、教育とは何なのかという点にある。ライバル的な存在として描かれる一人の女子教師も「良い教師」として振る舞いたいがために、目的が「良い教師でありたい」「誰からも崇拝されたい」という隠れたエゴをキャメロン・ディアスの存在によって露呈されていく。これが出来るのがブラックユーモア溢れるコメディの真骨頂であるが、「欲」とは何かと思わずには考えさせられる。しかし決まって偽善的な欲など見破れるのだろうか。「我欲」を求めた先に現実と理想を摺り合わせた答えを見いだす主人公は意外だが、物語としてのメッセージを強固なものにしたと思う。

ユーロスペース『先生を流産させる会』監督:内藤瑛亮
映画美学校的ルックがやはり気になってしまう作品。高い意識での試みは感じるので、そののっぺりとしたテンポがやや気になってしまう。この題材への脚色や試み、画面への意識がここまで話題を作らせたのかと思うと、自主映画として凄いとは思ったが、マネをしたいことなどはなかったが、監督の提示する情報量や、映画の仕掛けの上手さも含めて内藤さんは超新星だ。そういう意味では余分のなさなど見習う箇所が一杯あった映画だったかもしれぬ。

2012年06月02日のツイート